霊能者仲間からの救援。内容は恋愛相談…

電話占いを利用される方は恋愛や人間関係の悩みを抱えている方が殆ど。大体の悩みは霊感や霊視で相手の気持ちを読み、成就や問題解決の方法をお教えすることで解決しますが、中にはそういった手法では解決しない場合もあります。そのひとつが「心霊が関わっている場合」です。今回はそんな心霊トラブルの中でもとりわけ印象的だった事例をお伝えしたいと思います。

今から3年ほど前。その日は鑑定のお休みのはずだったのですが、仕事用の電話番号に入電が。コール音を聞きながら一瞬どうしようか迷ったのですが、ひとまず電話に出てみました。電話の主は電話占い愛染からではなく、古い縁の霊能者仲間からでした。私が鑑定の際に使っている電話は以前、個人で霊能活動をしていた際にも用いていたものなので、それももう10年以上前のことなのですが、稀に昔の知り合いから連絡が来ることがあります。

彼はまだ若い頃、共に修行をしたこともある霊能者のひとり。現在は個人で対面鑑定をしているそうなのですが、そんな彼から「どうしても手伝ってほしい案件がある。お礼は必ずする。すぐに来て欲しい」と電話越しで話されたのです。これは只事ではない、と直感しました。彼の霊能力は大変高く、霊感や霊視に関して並大抵の霊能者とは比べ物にならないほど高い精度を誇ります。一般的な恋愛成就や開運の悩みであればたちどころに答えを出してしまう程で、一部の界隈では割と有名です。そんな彼が「自分だけでは手に負えない」と助けを求める案件。これは恐らく、心霊絡みの大事（おおごと）だな、と直感しました。

すぐさま車を出し、大阪府内某所にある彼の事務所まで向かった私。彼は事務所の前で待っていてくれて「よく来てくれたね」と出迎えてくれました。顔は笑ってこそいましたが、オーラの節々に瘴気のようなものが混じっていました。「霊障問題か？」そう訊ねると、彼は無言でうなずき、私は自分の予感が真実だったことを悟りました。それから彼は事情をざっと口頭で説明してくれました。

「ある女性からメールで依頼を受けた。内容は『恋愛運が悪い、どうしても恋がうまく行かないからいい恋愛ができるように鑑定して欲しい』という一般的なもの。特に断る理由もなく、日にちを決めて対面での鑑定を行うことにした。だが実際に彼女がやって来て、これは只事じゃない……と思った。綺麗な30代の女性なんだが、彼女の周りにどす黒い大きな何かが渦巻いており、明らかに霊障が引き起こす問題、それも相当深刻なものであることがすぐに分かった。恐らく彼女の恋愛運を引き下げているのは不浄霊。しかも相当強力なものだ。並大抵の霊障なら一人で対応出来るが……。これはもしかしたら無理かも知れない、そう思い、頼れそうな同業者を必死で思い出し、お前に連絡した。すぐに来てくれて助かった。感謝する」

そうして彼は一通りの概要を説明した後、自分が霊視したものを説明してくれました。「恐らく人死にの因縁が関わっているのだが、渦巻く霊気が明らかに彼女自身を恨んでいるものではなく、因果が読めない。一体どうしてこんなことになっているのか……。ただ、渦巻く霊気からは彼女に対する凄まじい執着を感じる」そんな彼の説明を聞きながら、私は事務所の窓に視線を合わせたまま離せずにいました。窓から何かの群れがこちらを見ているのです。その数は一体や二体ではなく、また確実にこの世の者ではありませんでした。決して威圧するでも悪意を投げかけるでもなく、ただこちらの様子を不気味に伺っている……。そんな気配でした。

覚悟を決めて彼の事務所に上がり、私はその依頼客の女性と対面しました。「よろしくお願いします」椅子に座ったままそう言う彼女は少し派手目の綺麗な女性。艶やかなストレートの黒髪が妖艶な色香を醸し出していました。もし小洒落たバーで声を掛けられれば思わず大喜びするほどの美貌の持ち主でしたが、その周囲からはそんな美貌も霞むほどの不浄な霊気が放たれており、「出逢う人出逢う人ろくでもない人ばっかりで……私、結婚願望強いんで絶対幸せになりたいんですよね。よろしくお願いします」恋の相談じみた内容を口にしながら淀んだ気配をグルグルと渦巻かせ、あまりにも異様なギャップを醸し出していました。確かにこれは一人の手には負えない。そう実感しました。

渦巻く淀んだ気配の正体は…？

これは明らかに霊障問題です。解決のためにはまず霊を彼女の身体から引きずりだして正体を突き止める必要があります。そこで私達は役割分担をすることにしました。霊能者仲間の彼は結界を張り、霊を引きずり出して抑え付ける役目。そして私が霊と対話し、事情を探り、正体を掴む役目。そしていざという時の除霊は二人がかりでする、ということにしました。彼女には「邪気祓いをする」とだけ説明し、その後、事務所の一室全体に祭壇、塩、酒、水、注連縄などで結界を張り巡らし、そしてしばしの瞑想をした後、私達は儀式を始めることにしました。

私達が経文を読み始めると、しばらくはきょとんとした表情で座っていた彼女でしたが、やがてガクン！ と項垂れ、そのままガクガクと身体を左右に揺らし始めました。そして唸り声とも嗚咽ともつかない赤子のような声を上げ始めました。これは憑依した霊がこちら側に出てきた証拠。それにしてもこの声は……。「うわっ！ 水子の群霊だ！」彼が悲鳴にも近い声でそう言いました。その気配は霊体と言うにはあまりにも不安定で、怒りや悲しみといったハッキリとした意識を持たず、その代わりにひたすら淀んだ霊気を放ち、また彼女に対する凄まじい執着を感じさせました。総勢で十体に近い霊体が渦巻いており、どうやら他人の水子が大量に憑依しているようです。

込み上げる吐き気を抑えながら、私は霊感を働かせ、因果を読み解きました。まず最初に視えたのは、今より少しだけ若い彼女。そして横にいたのは、なんとテレビで見たことがある有名な男性ロックミュージシャン。どうやら彼女は以前そのミュージシャンの愛人をしていたようです。そして男性ミュージシャンの背後に渦巻く黒い靄。いま彼女に憑依しているものと同じものでした。「もしやこの水子霊は全てこの男性ミュージシャンの……」そう理解した瞬間、更なる強い吐き気が込み上げてきました。

しかし、それにしても一体なぜ既に縁の切れた相手の水子が彼女に憑依しているのか。その理由は群霊の渦を観察することで判明しました。黒い靄は水子の群霊として現れ、そうして彼女の付けている指輪に入ったり、そこから出たり、入ったり、出たりを延々と繰り返していることが分かったのです。その指輪は女物と言うには少々大きく、ロック色の強いデザインをしており、「そういう趣味です」と言われれば納得できるものの、あまり一般的な女性が身につけるような指輪ではなく、そして先ほどの霊視で視えた男性ミュージシャンが着けていたものと同じデザインでした。

この指輪が原因か。私は事態を完全に把握し、また「除霊の必要はない」ということを悟りました。私は水子の群霊をそのままに、霊能者仲間の彼に儀式の中止を告げました。彼も私を通して事態を把握したようで、黙って儀式を中止させました。そして道具を片付け、しばしの休憩を挟んだ後、彼女自身に対する解決策の説明が始まりました。

解決方法と意外な結末

まず、霊視で視えた男性ミュージシャンを彼女に話すと、「どうして……！？」と大層驚いた表情をした後、彼女は数年前にその男性ミュージシャンと愛人関係にあったことをあっさりと認めました。昔から大ファンで、ある時たまたまバーで見かけて自分から声を掛け、そのまま夜を共にし、気に入られ愛人関係になったそうです。向こうも一時期そこそこ執心していたようで、「この指輪はその時もらったものなんです。彼が長年つけていたものらしくて。昔は週一で逢ってくれてたんですよ。でもだんだん疎遠になってきて、最終的には自然消滅しちゃいましたね。指輪は何度も捨てようと思ったんですけど、調べてみたら割と高価な物みたいで、勿体なくてつい……」彼女の口からそんな言葉を聞きました。

男性ミュージシャンは今なお次々と女性と関係を持っては堕胎させており、水子の霊はすべて彼のもの。そして彼が長年つけていた指輪を通して縁が切れていない彼女の元にその霊が流れ込み、彼女を母親と錯覚して憑依している。そういうことです。これでは彼女が恋愛で幸せになれないというのも頷けます。要するにこの指輪がある限りふたりは霊的に繋がり続け、また彼女は彼の水子の影響を受け続けることになるのです。ということは、逆にこの指輪が彼の元に戻れば……。

「まず解決策からお教えします。指輪を彼に送り返せばあなたの恋愛運はたちどころに回復しますよ」私はまず要点から簡潔に説明しました。すると彼女は「やっぱりそうですよね。分かりました。すぐに彼の事務所に郵送します」とあっさり解答。それから私は、詳細な内容について話そうと思いましたが、そこで悩んでしまいました。男性ミュージシャンの堕胎、水子霊、憑依といったショッキングな内容を女性に告げる必要があるのだろうか……。事態そのものは指輪を送り返すことで間違いなく解決しますし、「過去の関係を清算することで運気は回復する」という説明だけで理屈は充分に通ります。余計な説明をして後味の悪さを引きずらせたら、それこそ彼女自身の今後の恋愛運に響きます。元に戻す意味がありません。私は本気で悩みました。すると……。

「大丈夫ですよ。全部分かりました」静寂を切り裂いたのは彼女の声でした。「彼の水子が憑いていたんですよね？ 私、赤ちゃんの悪夢を何度も見たし、泣き声も耳にしてました。でも自分は子供を堕ろしたことがないんで、水子が憑いてるんだなっていうのは分かってたんです。何とかしてもらおうと思って霊能者の先生にお願いしました。最初、恋愛相談と言ったのは……。ごめんなさい。別の霊能者の先生に正直に相談したら『水子は手に負えない』って断られて。だから仕方なく恋愛相談という形を取ってお願いしたんです。本物の方なら気付いてくれるかなって思って」

驚愕の事実が告げられました。彼女は最初からある程度分かっていたのです。我々は彼女に半ば嵌められてしまったことになります。普段、人の思惑や悪意くらいなら一瞬で察してしまう我々ですが、彼女の思惑に気付けなかったのは、水子の群霊が醸し出す不浄な霊気の渦のせいでしょう。霊感に優れた者であればあるほど不浄な霊気に当てられやすく、そういった意味では我々のように長年霊能の世界に携わっていた者だからこそ彼女の思惑に嵌められてしまった、と言えるかもしれません。

「お気を悪くなさらないで下さい。私はちゃんと視て欲しかっただけなんです。鑑定料はしっかりお支払いしますから」そう言うと、彼女はブランド物のバッグから分厚い封筒を出し、それを事務所のテーブルの上に置きました。ドン、という音がしました。その後、彼女は我々に何度もお礼を言って帰っていきました。

後日、その霊能者仲間の彼の事務所に彼女から手紙が届いたそうです。そこには、あれからすぐに指輪を送り返したこと、それを境目に赤ちゃんの泣き声や悪夢がピタリと治まったことが簡潔に書かれていました。そして最後に「これで気ままな独り暮らしを謳歌出来ます。ありがとうございました。もう男なんてこりごり」と書かれていました。