霊能者秘密手記 私が手掛けた心霊事件 第2回 遺品や人形など、いわくつきの物品に関する鑑定エピソード ②
霊能者秘密手記 私が手掛けた心霊事件
愛染に在籍する霊能者たちがこれまで手掛けてきた豊富な鑑定事例の中から、とくに心霊体験や霊障などのミステリアスな要素が強くからんだ相談を選び、その解決までの経緯などをご紹介するコーナーです。
決められたテーマの下に毎回、先生からの短い手記の形式を取り、その内容を順次公開させていただきます。本格的な霊能鑑定ならではの、不思議と恐怖に溢れたエピソードをお楽しみください。
遺品や人形など、いわくつきの物品に関する鑑定エピソード ②
「長年、愛用した物品にはその所有者の念がこもる」とよく言われます。代表格は人形で、髪が伸びる市松人形や夜中に歩き回る人形の怪談などは皆様も耳にされたことがあるのではないでしょうか。
今回はそうした人形にまつわる話を皮切りに、故人の写真や遺品、あるいは得体の知れない骨董品などがもたらした恐怖のエピソードを集めました。
土蔵の奥で笑う子供
これは私と同業の知人女性の体験談です。名前は本名の頭文字を取ってKMさんとしておきます。現在、彼女はタロットと易を専門とするプロの占術家をしているのですが、以前は霊能鑑定師という肩書きで、主に霊感系の電話占いなどで仕事をしていました。と言っても、商売のために霊能者を詐称していたわけではありません。実際、かなり高度な霊能力の持ち主で、かつては有名な霊媒の下で修行した経験もあり、今でもその能力はお客様を占断する際に併用していると聞いています。
そんなKMさんが在籍していた電話占いの会社では、その鑑定サービス項目の中に心霊相談というジャンルがあり、俗に言う心霊写真やいわくつきの物品などの鑑定とそのお祓いや浄霊供養といったことなども行っていたそうです。
ある時、そこの会社に送られてきた1体の人形に関することでレアな体験をしたと、私にその内容を詳しく聞かせてくれたことがありました。今回はそのことについて書かせていただきたいと思います。もちろん、ウェブ掲載に当たってはKMさん本人からも了解済みです。
電話占い会社へ送られてきたというその人形、具体的な種類は何と言えば良いのか分からないのですが、一見すると市松人形のような和風の作りで、赤い十二単のような着物をまとった少女の像であったそうです。大きさは大人の両手の掌に載る程度。背の高さは40㎝くらいだったと。
通常、この手の日本人形はホコリ除けのガラスケースに収められていることが多いと思うのですが、会社へ送られてきたのは本体のみでした。全体的に煤けた感じで肌地の日焼けや衣装の色褪せも激しく、本来の経年劣化もさることながら、あまり良いコンディションで保管されていた品ではないことは一目瞭然でした。実物を目にしたRMさんいわく、「まるでゴミ捨て場から拾ってきたような薄汚い人形だった」と。
送付主の説明によると、元々は近しい身内の遺品として3年ほど前に預かった品物で、本来はその故人の一人娘の手に渡るはずであったが、現在に至るまでその相続者が行方不明であるため、しかたなく霊能相談に申し込んだとのことでした。
荷物に付された便箋には、「夜中に人形が笑い出すので、気味悪くて持っていられなくなった」という旨が書かれていました。「ついては、この人形にどんな因縁が隠されているのかを明らかにした上で、これ以上の怪異を起こさないよう、適切な処置を施して欲しい」という依頼内容であったそうです。
当初、この人形についての霊視を託されたのは、じつはKMさんではなくて別の担当者だったそうなのですが、実物どころか写真を見た時点で即座に鑑定を断ってきたらしく、急遽その代役を引き受ける羽目になったとのことです。
会社からその仕事の依頼を受けて2日後、件の人形はKMさんの自宅へ転送されてきました。宅急便の配達員がダンボールで梱包されたそれを持って玄関先へ現れた時点で、「全身に鳥肌が立った」とKMさんは話していました。
「荷物を受け取った瞬間にね、頭の中に凄まじい勢いでビジョンが流れ込んできたのよ。自分の霊感を自覚してから長いけれど、ああいう経験はあれが初めて。見えたのは薄暗い土蔵の中みたいな場所で、階上へ続くハシゴ階段みたいなものが見えたんだけど、その真ん中当たりにね、赤い着物を着たおかっぱ頭の女の子が座っているわけ。それがまた凄く気持ち悪い姿で、何て言うか身体の大きさは小学校低学年くらいなんだけれど、顔だけが妙に老けていて、まるで太った中年のオバサンみたいな雰囲気なの。で、そいつが私の方を見ながら急にゲラゲラ笑い出して…」
これはこの話を聞いた当時、彼女が私に語ったそのままの言葉です。得体の知れない謎の霊視ビジョン…。そのあまりの気味悪さに、「これは関わってはいけないヤツだ!」と直感し、前任者と同じく仕事を断ることも頭をよぎったそうですが、「霊能者としての力を高める修行」と自らに言い聞かせ、昼下がりのリビングで慎重に荷物の中身を開封しました。
室内の脇に設(しつら)えた簡易な祭壇の前に蓋を開けたダンボール箱を置くと、いつものように霊視とお祓いの準備に取りかかったKMさん。しかし、そこから先へはどうしても手が進まなかったのだと…。単に気乗りしないというだけではなく、実際に身体の調子がおかしくなってしまったのです。
頭頂から背筋にかけて電流のような痛みが走ったかと思うと、たちまちひどい頭痛に見舞われ、しばらくは動くことすらできなくなりました。同時に、土蔵の中で不気味に笑う子供の映像が繰り返し脳裏へ流れ込み、終いにはそれが舌なめずりしながら彼女の方へ向かってくる気配まで生じてきたのだと。
それでも「負けてたまるか!」と、ありったけの気力を振り絞って半身を起こし、九字を切り、破邪の経文を唱えながら白い布地に幾重にも包まれた人形を取り出したのですが…。記憶にある情景は、そこまで。人形を直に手に取り、その相貌と向き合ったところでフッと意識が途切れ、再び気がついた時にはすでに日暮れの時刻だったそうです。
彼女は自分がリビングのソファー脇に倒れていることに気づきました。それを仕事を終えて帰宅してきた旦那さんに発見されて、懸命に介抱されていたのです。不思議なことに足許に放り出したダンボール箱はまだ開封していない状態に戻っていたそうで、彼女の記憶が一時的に混乱したということなのか、それとも本当に物理法則に反する出来事が生じたのか、その辺は定かではありませんが、とにかくKMさんは翌日の朝を待ってすぐに荷物を会社へ返送してしまいました。
「自分の実力ではとても手に負えない代物だって悟ったのよ。たぶん、あのまま抱えていたら私、とばっちりを受けて死んでいたと思う。自己弁護するわけじゃないけれど、あれは私だけじゃなくて誰でも無理。だって呪いを解除しようとすると、その人も道連れになるように、最初から仕掛けられていたモノだから…」と、しみじみ語っていました。
件の人形の正体はその後、依頼主のもとに送り返されましたが、それにまつわる隠された事情が明らかになったのは数ヶ月後のことでした。きっかけは、「預かってもらっている母親の遺品を引き取りたい」という問い合わせの電話でした。掛けてきたのは長らく行方不明であった故人(元々の人形の持ち主)の娘で、この人物の口から、おおむねの話の流れを聞くことができたのです。
まず、電話占い会社へ人形を送ってきたのは九州地方の某地に暮らす高齢女性で、彼女の伯母に当たる人物であること。彼女の母親は自宅で病死しているところを発見されたそうなのですが、生前に1通の遺書を残しており、伯母はその指示に従って妹の遺産を処分したわけです。しかし、肝腎の遺品の受け取り手である姪とは疎遠であったため、連絡を取ることが叶わなかったと。
そして人形を預かった伯母は、とたんに様々な怪異現象に見舞われるようになり、困り果てて知り合いに相談。その人からさらに紹介を受けて、KMさんが在籍していた電話占い会社に打診してきたということであったようです。
人形の元の持ち主である亡くなった女性というのは、生前、拝み屋のようなことを生業としていたらしく、初めの頃は共に強い霊感の持ち主である親子のコンピで営業していたのですが、娘は出奔してからは、母親1人で同じ仕事を続けていたようです。
また問題の人形は彼女の大切な商売道具で、お客から依頼を受けた呪詛行為、つまり誰かに特定の呪いを掛けたり、極端な場合には呪い殺したりする際に使われていた形代(かたしろ)であったそうです。娘はそうした母親の仕事振りが次第に恐ろしくなり、隙を見て逃げ出したということも分かりました。
「拝み屋が呪殺に使っていた得体の知れない人形を、直に手にして霊視しちゃったんだから、そりゃ気絶もするわよね。普通の人の感覚で言ったら、猛毒の液体が入った瓶を一気飲みしたようなものだから。それからこれはきちんと確認したわけじゃないから断定できないんだけど…」と、KMさんは息を潜めて言葉を続けました。
「あの人形の中には死んだ人間の骨が入っていたと思うの。そう、あの時、ビジョンに現れた、あの幼い女の子の骨よ。それでね、その女の子って多分、拝み屋の母親が産んだ子供の1人じゃないかって」
結局、人形は故人の娘に引き取られ、その後どうなったのかは一切不明とのことです。供養した後に処分されたのか、それともまだ呪いの形代として誰かに使われているのか…。なお、KMさんはこのことがトラウマになってしまい、ほどなくその電話占い会社から籍を外し、自ら「霊能者」と名乗ることも止めたそうです。
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